MACS教育プログラムでは、アバディーン大学のRan Levi氏による連続講演 “Neurotopology - The topology of neural systems” を開催します。
Ran Levi氏の専門分野は代数トポロジーで、特に、群のホモトピー論で顕著な業績をあげています。最近は、EPFL(スイス)のBlue Brain Projectとの共同研究で、トポロジーと神経科学とのコラボレーションに関する研究にも携わっています。
この連続講演では、線形代数の初歩的な知識のある幅広い分野の学生・研究者を対象に、neurotopologyという神経科学とトポロジーの新しいコラボレーションについて紹介します。初日の講演では初等的なトポロジーのアイディアについて解説し、2日目の講演では神経科学入門およびBlue Brain Projectとの共同研究を紹介する予定です。また、両日とも講演終了後にはディスカッションの時間を設けます。
理学部・理学研究科の学生・教職員に開かれた講演です。様々な分野の研究者、大学院生、学部生の参加を歓迎します。
日 時
2017年7月18日(火曜日)15:00〜17:00
2017年7月19日(水曜日)13:00〜15:00
場 所
理学研究科3号館110講義室
講演者
Ran Levi氏(アバディーン大学)
内 容
7月18日(火) | 15:00〜16:30 | A topological toolbox for neuroscience In this lecture I will introduce some basic tools of algebraic topology. Abstract simplicial complexes will be introduced as a model for a world of “nice” topological spaces. I will consider certain constructions that give rise to abstract simplicial complexes, such as the flag complex associated to a graph. I will then introduce homology, describe its use and demonstrate some basic computational techniques. I will then move on to describe variations of these topological tools that are particularly suitable to neuroscience. |
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16:30〜17:00 | ディスカッション | |
7月19日(水) | 13:00〜14:30 | Topological analysis of a digital reconstruction of a cortical microcircuit In this lecture, I will start with some basic facts on neuroscience and the digital reconstruction of a rat’s neocortex by the Blue Brain Project. I will then proceed to the work I have done with the Blue Brain Project team, where we applied topological techniques to study emergent properties of the reconstructed neocortical microcircuit. In particular I shall demonstrate how the topological techniques give new data on the behaviour of neural systems and inspire new directions in neuroscience research. |
14:30〜15:00 | ディスカッション |
講義資料
開催報告
MACS連続講演ではアバディーン大学のRan Levi氏を招き、「Neurotopology – The topology of neural systems」と題してふたつの講義からなる講演会を行いました。
代数トポロジーとはホモトピーと呼ばれる変形で不変な空間の性質を代数的に抽出することで研究する数学分野であり、空間のおおまかな形を数値化するための道具を提供します。近年、代数トポロジーはネットワーク理論、データ解析、ロボット工学など様々な分野へと応用され、「応用トポロジー」という言葉が一般的になりつつある。本講演会ではLevi氏がスイスのBlue Brain Projectと共同で研究している代数トポロジーの神経科学への応用に関する解説を2回に分けて行いました。
第1回講義は代数トポロジーの入門コースでした。講義の目的は代数トポロジーの道具を学ぶことではなく、アイデアを理解することでした。単体複体という「レゴブロック」のように単純な基本ブロックを積み上げることで得られる基礎的な空間と関連する旗複体を導入し、それを解析するための代数的な道具であるホモロジーについて解説しました。また、有向旗複体という新しい空間も導入し、神経科学をモデル化するために必要なセッティングを整えました。
第2回講義は、第1回講義のアイデアを用いて行なっているLevi氏とBlue Brain Projectと行なっている共同研究について、主に代数トポロジーがどのように応用されるかについての解説をしました。Blue Brain再構成と呼ばれる神経科学におけるデータ解析の方法と代数トポロジーを用いたデータ解析を比較することで、代数トポロジーの応用が神経科学において有効であることを示し、その後、いくつか具体的なモデルに対して代数トポロジーを用いたデータ解析を行いました。最後に、Levi氏とBlue Brain Projectの共同研究の現状と将来の展望をお話いただき、講義は終了しました。
講義には30名近くの出席者が集まり、講義は盛況でした。参加者は多様な背景(数学だけではなく、物理、生物、神経科学など)をもっていましたが、Levi氏が丁寧に講義なさったため、多くの熱心な質疑がなされ、講義終了後の議論も非常に活発で、予定時間を超過するほどでした。(文責 岸本大祐)
*当日の講義スライドおよび配布資料はこちらのページからダウンロードできます。